「不正改造車を排除する運動」はなぜ毎年6月なのか
― 3年車検が生んだ負の歴史と、中古車業界が今も襟を正し続ける理由
この記事のポイント(要約)
6月に何が行われているのか
強化月間中に行われることは、大きく2つです。
ひとつは啓発。ポスター・チラシ・リーフレットで「不正改造は犯罪です」というメッセージが、事業者だけでなく一般のユーザーに向けて大々的に発信されます。もうひとつが取締りで、行政・警察・業界団体が一体となった街頭検査と路上点検が全国各地で実施されます。運動には重点排除項目と基本排除項目が定められており、年度ごとにどこに力を入れるかが示されます。
JUグループの位置づけは「協力団体」ではなく当事者です。JU中販連が不正改造防止推進協議会に名を連ねており、機関誌は毎年、「不正改造をしないショップづくり」と「不正改造をさせない啓蒙活動」の2つを組合員に呼びかけてきました。6月だけでなく7月以降も継続する、という書き方が毎年繰り返されているのが特徴です。
いまも残る不正改造 ― 誌面が挙げ続けてきた類型
機関誌が繰り返し取り上げてきた不正改造は、次のようなものです。
・窓ガラスへの着色フィルムの不正貼付 ― 以前よりは相当減ったとされるが根絶には至っていない
・マフラーの切断・取外し ― 騒音の増大を招く。これも減少傾向だが残る
・ダンプのリアバンパーの切断・取外し ― 土砂等を運搬する車両で「一向に後を絶たず、問題はむしろ深刻化している」と誌面は書いています
・大型車のスピードリミッターの解除・取外し ― 同上
・灯火の色の変更など、誤認を招く改造 ― 「オシャレ感覚で気軽に、時には自覚が無いまま」手を染める若年層ドライバーが少なくない、と指摘されています
とくに最後の点について誌面は、本人に悪意がなくても「他のドライバーや歩行者等が受ける不安や恐怖は決して小さくない」と書いています。改造した本人の主観ではなく、周囲がどう感じるかで判断される ― これが不正改造の性質だという整理です。
運動の原点 ― 「3年車検」と、空白の1年
この運動がなぜ生まれたのかを、機関誌はかなり踏み込んで書き残しています。
昭和58年、いわゆる「3年車検」(新車の初回車検までの期間の延長)が導入されました。これにより車検整備の市場に「空白の1年」が生じ、それまで法定需要に依存していた整備事業者は大きな打撃を受けます。そこから仕事と売上を確保しようとして不正改造に手を染めた関係者が少なくなく、行政処分を受けた事業者の中にはメーカー系列の新車ディーラーまで名を連ねた ― これが誌面の記述です。
同じ時期、暴走族車両や過積載ダンプの氾濫・横行が大きな社会問題となり、その不正改造に加担していた業界関係者が社会から厳しく指弾されました。「二度と同じ過ちを犯さないように襟を正そう」と官民を挙げて起こしたアクションが、この運動です。中部運輸局管内では平成元年度から、全国では翌平成2年度から、毎年実施されてきました。
誌面はこの経緯を「貧すれば鈍する」ということわざで振り返っています。お金が無くなると頭の働きが鈍り、品性がさもしくなる ― かつての違法改造や不正車検は、まさにそれを絵に描いたような出来事だった、と。そのうえで「30年が過ぎようとしている今でも悪質な不正改造車が一向に後を絶たない」と、自らへの警鐘として書いています。組合の機関誌が、自分たちの業界の失敗をここまで率直に書き残していることは、この運動の性格をよく表しています。
「危険分子」という言い方 ― 中古車業界にとっての不正改造
誌面が一貫して使っているのが、「クルマを商品として取り扱う私たちにとって、不正改造車は私たち自身の飛躍発展を阻害する危険分子に他ならない」という表現です。
これは道義的な話だけではありません。中古車は、次の買い手が「この車は大丈夫か」と不安に思うところから商談が始まる商品です。市場に不正改造車が混ざっている限り、その不安は業界全体に返ってきます。だから「お互いに牽制し合うことで、不正改造に手を染めない土壌をつくる」という言い方になります。取り締まられるから止めるのではなく、業界の側が自分の商売を守るために排除する、という論理です。
令和5年(2023年)の記事では、3年余にわたるコロナ禍の影響で「不正改造に手を染めたくなるような誘惑が多発する危険性」にも触れています。昭和58年の「空白の1年」で起きたことを、業界が経験として覚えているからこその一文です。
実務の線引き ― 整備講習会で語られた保安基準
では現場では何をどう見ればよいのか。平成28年7月に名古屋で開かれた「自動車整備講習会」(メンバーショップ31社53名を含む61名が参加)の内容が、その手がかりになります。講師は中日本自動車短期大学の五十嵐巧氏。153頁の講習マニュアルに沿って、保安基準、最近の改正内容、PM・NOx法、点検整備のポイント、OBD(スキャンツール)の活用までを約5時間で解説しました。
講義で強調されたのは、保安基準が「自動車運行の安全確保・公害防止・環境保全」の3大原則に基づくということです。そのうえで、長さ・幅・高さ、最低地上高(9cm以上)、車両総重量、軸重、最小回転半径といった構造基準が順に解説されました。
実務的に効くのが、車高の低い車両の見極め方として紹介された「直径9cmのソフトボールを車体の下に転がして、途中で止まるようならダメ」という方法です。数字を覚えるより、現物で確かめられる形にしてある点が現場向きです。また、車高の低いスポーツ車両に非純正マフラーを装着すると基準に適合しなくなる可能性、サスペンションのばね切断は絶対に禁止、燃料タンク近くの電気端子は火花に注意 ― といった具体的な注意も挙げられました。
五十嵐氏はディーラーのサービス現場出身で、暴走族・走り屋の不正改造車の実例を交えて講義したと記録されています。そして受講者に最も強く残ったのが、「よく走るクルマより、よく止まるクルマのほうが断然いい」という一言でした。
買う側にとって、この話がどうつながるか
不正改造の排除は、行政と業界だけの話に見えて、実は中古車を買う人に直結しています。改造された車は車検に通らない、保険や賠償の場面で不利になる、そして何より安全でないという問題を、次の所有者が引き受けることになるからです。
JU愛知の加盟店は、この運動の当事者として毎年の啓蒙とスタッフ教育を続け、古物管理者講習会や整備講習会で保安基準を学び直す機会を持っています。「不正改造をしない・させない」という約束は、そのまま「あとで困る車を売らない」という約束でもあります。