機関誌アーカイブ

研修レポート

「検査・クレーム講習会」から「検査・査定講習会」へ
― 平成29年度の初開催から3年、延べ105名が学んだ「目利き」とクレームを出さない出品

この記事のポイント(要約)

JU愛知の検査委員会が平成29年度に始めた「検査・クレーム講習会」は、実際にオークションの車両検査とクレーム業務に従事する事務局職員が講師となり、評価点の「ガラスの天井」(上限評価点)実例15例で学ぶクレーム裁定白紙の出品申込書と格闘する実車実習を組合員に開いた研修です。初年度は定員を軽く超えて追加開催、平成30年度も2回開催、令和元年度には「検査・査定講習会」に改称して半日化し、募集はわずか3日で定員に到達。3年間・全5回で延べ105名が受講しました。本記事は機関誌「あいぶら」5本の掲載記事 ― ①平成29年度第1回(第243号)②同第2回(第244号)③平成30年度(第254号)④令和元年度第1回(第265号)⑤同第2回(第266号) ― を1本にまとめた記録です。プロ同士の業者間取引でさえ、これだけの教育と検査基準の共有が積み上げられている ― JU加盟店の「目利き」の裏側が分かります。

なぜ組合が「検査とクレーム」の講習会を始めたのか

始まりは平成29年10月17日。検査委員会主幹による第1回「検査・クレーム講習会」が、JU愛知オークション会場で開かれました。メンバーショップ10社から経営者・幹部社員・スタッフ21名が参加し、午前10時から午後2時半まで、座学と実習でJU愛知オークションにおける車両検査とクレームのポイントを学びました。

企画の動機は「組合員の皆様にJU愛知オークションのことをもっと深く理解して欲しい」という検査委員会の願いです。講師は外部の専門家ではなく、実際に車両検査とクレーム業務に従事している事務局の担当職員。オークションの規約・規程はもとより、独自のルールや取決めを、検査スタッフの目線と日常業務の観点から解説する ― それはオークションの仕入れだけでなく、小売の下取り・買取り、自社の検査・評価で出品登録できる「テントリ」にも役立つはず、という設計でした。

講師陣が手作りでまとめた分厚いテキストは、講習が始まる前から「これを持ち帰れば今後の仕事に大いに役立つ」と評判に。当初は1社2名限定・定員20名の1回開催の予定でしたが、理事会で「もっと多くの皆さんが受講できるように対応すべき」との意見が複数挙がって限定枠を外したところ、希望者が定員を軽くオーバーし、11月17日の第2回開催が決まりました。

評価点の「ガラスの天井」― なぜ直したのに3.5点なのか

座学の柱が上限評価点の解説です。出品店の多くが抱く「せっかくダメージ部分を加修したのに、なんで評価点が3.5点なんだ!せめて4点にならんのか!」という不満に、講習会は明快な答えを用意しました。

上限3.5点 ― 溶接止め外装パネル1枚以上の交換、フロントガラスに30cm以上のヒビ割れ、エンジン異音など
上限4.0点 ― ネジ止め外装パネル2枚以上の交換、外装パネル5枚以上の金修理など
上限4.5点 ― 外装パネル2枚以上の金修理、フロントガラスに1cm程度のヒビ割れなど

さらに、走行距離15万km以上は3.5点、登録3年以上は5点、色替えは4点が上限。つまり、いくら加修を施して見栄えが良くなっても、評価点が据え置きになるケースがある ― 平成30年度の講習ではこの仕組みが「ガラスの天井」という言葉で説明され、定着していきます。内装評価では局部のたれ・シミはC点、全面的なたれはD点。サビ・腐食は「小さな」はカードサイズ、「目立つ」は15cm四方、「大きな」はそれ以上と、判定サイズまで具体的に示されました。

評価点制度そのものの詳しい解説は「中古車オークションの『評価点』はどう決まるか」にまとめています。講習会は、この制度を「知識」でなく「手を動かす経験」として組合員に落とし込む場でした。

クレーム講習 ― 実例15例と「別表Ⅲ」で学ぶ紛争予防

もう一つの柱がクレームです。出品店には点検・整備を徹底しクレーム発生を未然に防ぐ義務があり、落札店のクレーム申立は原則1台1回のみ。クレーム規程の①申立期間 ②用語の定義 ③裁定 ④免責事項 ⑤迷惑料・遺失損益 ⑥制限 ⑦事実の確認 ⑧代金減額請求の上限 ⑨制裁を重点的に解説したうえで、実際にクレーム対象となった車両の写真・出品申込書の記載内容・クレーム申告内容・ディーラー見積書を公開。「別表Ⅲ 具体的クレーム事項の受付と裁定」と照合しながら、何がクレームの要因になり、代金減額の上限がどう決まるのかを事例で追いました。

平成29年度の第2回では、前回の反省を踏まえてクレーム事例を15例に拡大。エンジン異音で現状車とみなされるケースでは、実際に録音した異音(洗濯機の脱水機が壊れたようなカラカラと乾いた音)を会場で再生して確認するという徹底ぶりでした。修復歴車については「外装の見栄えが良くても骨格部位の修復が不十分な車両が少なくない」と、目に見えない部分への注意を促しています。乗用車だけでなく、トラック検査時のチェックポイントや架装品・メーターの注意事項も写真を交えて扱われました。

白紙の出品申込書と格闘する実車実習

この講習会の名物が午後の実車実習です。受講者が検査スタッフの立場に立ち、教材車両を1台ずつチェックして、出品申込書に検査・評価結果の表記記号を実際に記入します。平成30年度からはダンプの教材車両も加わり、トラック検査のポイントをグループごとに学びました。

仕入れの場では、出品申込書に書かれた内容を手がかりに重点チェックするのが普段のやり方です。ところが実習では白紙の申込書から車両の状態を判断しなければならない。この作業が想定以上に難しく、「検査スタッフの苦労がよく分かった」「日常の検査の甘さに気づけた」と苦笑いする受講者が続出しました。令和元年度のアンケートでは「とても参考になった」の声が圧倒的で、7割以上が「次回も受講したい」と回答。「検査スタッフの日常業務に密着して学びたい」「輸入車の講習会も」「屋外で陽光の下で実習を」と、次への要望も相次いでいます。

令和元年度、「検査・査定講習会」へ ― 半日化で募集3日で定員

3年目の令和元年度、講習会は「検査・査定講習会」に改称されます。平成29・30年度の一日講習から、内容を検査・査定に絞った午後からの半日講習に変更。受講者の負担軽減と参加しやすさを考えた見直しです。①半日講習 ②AA会場開催 ③座学時間の短縮という3つの要素が受け入れられ、8月27日と9月13日の2日間・計40名の定員はわずか3日間の募集で埋まりました

実車研修は講師4名が受講者を4グループに分けて教材車両4台と「格闘」。最初の2台で検査手順と修復歴発見のノウハウを学び、残り2台で一人ひとりが検査・評価して出品申込書に記入する、という現在の実車研修の型がここで確立しています。

第2回(9月13日・11社17名)では、その年4月の「修復歴判断基準」見直しも最前線の情報として共有されました。骨格部位の修復歴判断サイズが500円玉からカードサイズに変更され、JU愛知オークションでR点(修復歴車)出品が減少していること。また、コンパクトカーなどで新車から多く採用される「ロアサポート」の損傷・交換跡は修復歴に該当しない(溶接交換の場合の上限評価点は3.5点)ことが明言されています。基準が変われば、その解釈まで含めて講習で組合員に届ける ― 制度と教育が一体で動いている例です。

3年間の開催記録

年度・回開催日参加主な内容掲載号
平成29年度 第1回平成29年10月17日10社21名初開催。上限評価点の取決め、手作りテキスト第243号
平成29年度 第2回平成29年11月17日16社21名クレーム事例15例、エンジン異音の録音再生、トラック検査第244号
平成30年度(2回開催)平成30年9月14日・18日計17社28名「ガラスの天井」、ダンプ教材車の導入第254号
令和元年度 第1回令和元年8月27日11社18名「検査・査定講習会」へ改称・半日化、募集3日で定員第265号
令和元年度 第2回令和元年9月13日11社17名修復歴判断基準の見直し(500円玉→カードサイズ)を共有第266号

買う側にとって、この記録は何を意味するか

中古車のオークションは、プロ同士の業者間取引です。それでもJU愛知は、評価点の天井・クレームの裁定基準・修復歴の判定サイズといった「揉めごとの種」を規程と別表で明文化し、その読み方を組合員に繰り返し教えてきました。クレームを裁くだけでなく、クレームが起きない出品のしかたを出品店側に教育する ― この講習会の3年間は、その積み上げの記録です。

店頭で中古車を買う消費者がこの講習会を直接目にすることはありません。しかし、JU加盟店が仕入れの場で使っている「目利き」と品質基準は、こうした場で鍛えられ、共有されてきたものです。修復歴の説明や品質への質問に、根拠を持って答えられる店かどうか。その裏側には、こういう地道な研修があります。

ℹ️ 補足本記事は機関誌「あいぶら」第243号〜第266号(平成29年10月〜令和元年9月)に掲載された5本の講習会レポートを1本に統合したものです。文中の評価基準・クレーム規程・修復歴判断基準・参加要領はいずれも掲載当時のものです。この講習会はその後、コロナ禍を経て「スキャンツール講習会」と統合され、現在は「検査&スキャンツール講習会」として開催されています。現行の講習・基準の内容はJU愛知事務局へご確認ください。

出典:JU愛知(愛知県中古自動車販売商工組合) 機関誌「あいぶら」第243号〜第266号