中古車を買う前に知っておく法律と「支払総額表示」の見方
― 表示価格では買えない車を避けるために
この記事のポイント(要約)
1. 中古車取引に関わる法律の全体像
中古車の売買は、実は複数の法律が重なり合った取引です。中古車取引に係る法律の代表的なものとしては、次のものがあげられます。
| 法律 | 何を定めているか |
|---|---|
| 古物営業法 | 中古車販売を営むために必要な資格である古物商について定めています。資格のある販売店で、JU中販連(一般社団法人 日本中古自動車販売協会連合会)の会員である販売店には「標識」が掲示されています |
| 道路運送車輌法 | 自動車の登録・検査・点検・保安基準等、取引の対象である自動車そのものについて定めています |
| 不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法) | 販売における表示等について定めています |
上記の他にも、割賦販売法、特定商取引法、自動車保管場所法、そして民法、消費者契約法、刑法があります。ローンを組むなら割賦販売法、キャンセルや不具合の話になれば民法と消費者契約法、車庫のことなら自動車保管場所法、というように、場面ごとに効いてくる法律が変わります。
自動車業界でもこれを受けて自動車公正競争規約を定め、中古車販売の際の表示等について細かく規定しています。この記事で扱う支払総額表示も、修復歴の表示も、この規約が出どころです。
店頭で古物商の標識が掲示されているか、そして規約に沿った表示をしているかは、その販売店を見分ける最初の手がかりになります。
2. 価格表示のルール ― 令和5年10月からの「支払総額表示」
中古車を検討する上で最も重要なのが価格です。ここに大きな制度変更がありました。
これまで販売者は「車両価格表示」または「支払総額表示」の選択ができましたが、自動車公正競争規約によって令和5年10月から「支払総額表示」が義務付けられました。
①「支払総額」とは
・「②車両価格」に、当該中古車を購入する際に最低限必要な「③諸費用」を加えた価格です。
・販売店の管轄の運輸支局等で登録(届出)し、店頭納車の場合の価格のため、県外登録の場合や、店頭以外の場所に納車する場合、お客様の要望に基づきオプション等を付けた場合は、別途費用が発生します。
②「車両価格」とは
・店頭において車両を引き渡す場合の消費税を含めた現金価格で、展示時点で既に装着済の装備等(ナビ、オーディオ、カスタムパーツ等)を含む価格をいいます。
・中古車の価格・品質に重要な影響を及ぼす「定期点検整備」および「保証」を付帯して販売する場合、その費用は「車両価格」に含めて表示されています。
③「諸費用」とは
・保険料、税金、登録等に伴う費用(登録等手続代行費用)をいいます。
2-1. なぜ「車両本体価格だけ」の表示ではいけなかったのか
もともと自動車公正競争規約は、諸費用や税金を含まない車両本体の現金販売価格を表示するよう義務付けてきました。理由は2つあります。
ひとつは、中古自動車の売買には、ユーザーとの取引条件や契約車両の登録状況などによって、費用が発生する場合とそうでない場合があり、費用に差が生じることです。たとえば、自動車の登録で、運輸支局まで自動車を持ち込まなければならない場合と、書類だけで済むケースとでは登録に関する代行費用に差が生じます。また店頭納車では納車に関する費用は請求できませんが、ユーザーの自宅まで届けるケースでは納車費用が発生します。
このように個々の契約によって費用の状況が異なるのに、あらかじめ諸費用や税金を合算して車両本体価格(現金販売価格)に上乗せして表示されている場合は、ユーザーは必要のない費用を請求されている可能性があるわけです。
もうひとつは、諸費用や税金が合算されていると車両自体の価格が不明確になり、一般消費者が中古自動車を購入するにあたって価格を比較検討することが困難になることです。
2-2. それでも起きた問題 ― 「表示価格では買えない車」
ところが、車両本体価格だけを表示するルールのもとで、別の問題が起きました。
近年一部の事業者において、車両本体価格(現金販売価格)を相場よりも安く表示しユーザーを勧誘しておきながら、その後見積もりを作成すると諸費用が高額であったり、整備をしなければ販売しないという条件付きでその整備費用が別途必要であったり、また将来の整備費用を前払いするパック商品の購入を必須条件とするなどの商談が行われているようです。
ユーザーがそのようなオプションは不要と伝えても強引に付帯させられてしまい、実際に購入する際に支払う総額は相場よりも高いといった販売方法は不適切ではないか、という声が上がっていました。
本来、条件付き販売であれば、その条件に伴い発生する費用は、車両本体価格(現金販売価格)に含めて表示すべきものです。
こういった販売方法を防止するため、店頭において車両を引渡す場合の消費税を含めた車両本体価格(現金販売価格)に、保険料、税金、登録等に伴う費用等を加えた価格を「支払総額」とする表示方法が、自動車公正競争規約施行規則に新たに設けられました。
言い換えれば、ネットの検索結果に並ぶ「支払総額」は、そのまま比較してよい数字になったということです。ここが制度変更の最大の意味です。
2-3. 支払総額表示の書き方にもルールがある
「支払総額表示」を行う際は、車両本体価格(現金販売価格)を併記するとともに、次の2点を表示することとされています。
- 「支払総額には保険料、税金、登録等に伴う費用等が含まれている」旨
- 「当該価格は登録等の時期や地域等について一定の条件を付した価格である」旨
2つめの但し書きが効いてくるのが、県外登録・自宅納車・オプション追加のケースです。支払総額はあくまで「その販売店の管轄で登録し、店頭で受け取る」前提の価格なので、遠方の店から取り寄せる場合などは、この前提が崩れます。見積もりを取る段階で、自分の条件だといくらになるかを確認してください。
3. 「これを付けないと売れません」への対応
ここが買う側にとって最も実戦的な部分です。
「支払総額表示」は、その費用を支払えば購入できる費用であることを示したものです。したがって、ユーザーが支払総額表示の内容以外に希望するものが無ければ、その他に購入しなければならないオプション費用等はありません。
支払総額表示以外に希望していないオプション等が付帯されている場合は、不要であることを伝えましょう。
実際に、公取協(自動車公正取引協議会)から「中古車の不当な価格表示(整備や保証等の購入を強制、表示価格では購入できない)に対し『警告』の措置」が出されています。
提示された見積もりに、自分が希望していないコーティング・整備パック・保証延長・付属品が入っていたら、「これは希望していないので外してください」と伝えてよいということです。それで販売を断られるようであれば、その取引自体を見送る判断も含めて検討してください。
4. 支払総額が同じでも中身は違う ― 点検整備と保証
支払総額表示になったからといって、同じ金額の車が同じ条件とは限りません。ここは制度が揃えてくれない部分です。
「支払総額表示」であっても、「定期点検整備なし」「保証なし」のプランもあれば、「定期点検整備あり」「保証付き」のプランであった場合もあります。「定期点検」および「保証」については、付帯の有無によって商品価値が大きく異なるので、付帯内容をきちんと確認することが必要です。
さらに保証については注意が要ります。保証は、対象範囲が著しく限定されているケースもありますので、保証つきであっても、どのような保証であるかをきちんと確認しておく必要があります。
| 確認すること | 見るポイント |
|---|---|
| 定期点検整備の有無 | 付帯する場合、その費用は車両価格に含めて表示されているはず。含まれているのか、別料金なのか |
| 保証の有無 | 「保証付き」という言葉だけで安心しない |
| 保証の対象範囲 | どの部位・どの故障が対象か。範囲が著しく限定されていないか |
| 保証の期間・距離 | いつまで、何kmまで有効か |
| 保証の手続き | どこで受けられるのか、免責はいくらか |
なお、保証の有無にかかわらず、契約内容と違う車を渡された場合の責任(契約不適合責任)は別に存在します。詳しくは 中古車の契約はいつ成立し、いつ解除できるのか をご覧ください。
5. 車を探し始める前に固めておく3つのこと
価格表示の見方と並んで大事なのが、そもそも何を買うべきかを先に決めておくことです。
5-1. 購入目的の明確化
仕事に使うのかレジャー用か、近所で乗ることが多いのか長距離ドライブが多いのか、雪道で使うことはあるのか等々、しっかり考えておきましょう。
もちろんスタイルや装備は重要なポイントですが、実際の使用の状況から掛け離れてしまえば宝の持ち腐れになってしまいます。ここが曖昧なまま店に行くと、勧められた車が良く見えてしまいます。
5-2. 車庫の確保
自動車を購入する際には保管場所が必要です。車庫には次の条件があります。
- 使用の本拠地(自宅等)から直線距離で2Km以内にあること
- 他の交通を妨げることなく出入りできること
- その車がきちんと収まるスペースがあること
この保管場所が確保できないと警察署で車庫証明を発行してもらえず、運輸支局での登録手続きが行えません(軽自動車はお住まいの地域により車庫の届出が必要となります。詳しくは最寄りの警察署にお問い合わせください)。
「とりあえず契約して、車庫は後から探す」は順序が逆です。候補車を決める前に、その車が収まる車庫があるかを確認してください。大きな車に乗り換える場合は特に、寸法まで見ておく必要があります。
5-3. 購入資金の準備
現金で購入する場合は別として、クレジットで購入する場合は自分の返済能力について充分な検討が必要です。能力以上の借入は返済に相当無理をすることになり、生活を破綻させかねません。
また、購入費用は車両価格以外にも付帯費用が必要です。もちろん現金で購入すればクレジット返済金は必要ありませんし、自宅に車庫があれば駐車場代もいりません。しかしそれ以外の費用だけでも2〜3万円程度は必要ですから、慎重に購入計画を練る必要があります。
支払総額表示になったことで、車を買うのに必要な総額は以前より読みやすくなりました。そのうえで、買った後に毎年かかるもの(自動車税種別割・任意保険・車検・駐車場代・燃料代)まで含めて計画を立ててください。諸費用の中身については 中古車の「諸費用」は何にいくらかかるのか で詳しく扱っています。
6. まとめ ― 買う側のチェックリスト
- 支払総額で比較する。令和5年10月から支払総額表示が義務なので、車両本体価格だけの表示は制度に沿っていない
- 支払総額の但し書きを読む。県外登録・自宅納車・オプション追加は別途費用になる
- 希望していないオプションが見積もりに入っていたら外してもらう。「付けないと売らない」は規約違反
- 点検整備と保証の有無・範囲を確認する。「保証付き」の一言で判断しない
- 古物商の標識と、組合加盟の有無を見る
- 目的・車庫(直線距離2Km以内)・資金の3点を、店に行く前に固めておく
そして、こうした表示のルールや説明の手順は、業界団体の研修で繰り返し扱われている内容です。規約に沿った表示をし、聞く前に説明してくれる販売店を選ぶことが、いちばん確実な予防になります。愛知県内であれば JU愛知の適正販売店 が目安になります。