中古車の契約はいつ成立し、いつ解除できるのか
― 「無効」「取消」「解除」とキャンセル料の考え方
この記事のポイント(要約)
1. そもそも契約はいつ成立するのか ― 口頭でも成立する
まず出発点です。一般的に売買の契約とは、販売する人と購入する人双方合意の下で成立となる諾成契約となります。これは書面を作成せずに口頭で交わされた内容であっても同様です(民法第522条、555条)。
特に自動車売買は高額になることが多く、書面の交付が義務付けられていると感じることがありますが、民法で書面の交付が義務付けられているわけではありません。「書面を作成していない」「署名をしていない」「印鑑を押していない」等の場合でも、一般的に契約は成立します。
ただし、割賦販売法や特定商取引法等(施行令、施行規則を含む)の特別法において、販売業者に一定の内容が記載された書面交付を義務付けている契約もあります(割賦販売法施行規則第5条)。ローンを組む場合などがこれにあたります。
迷いがあるうちは、口頭であっても購入の意思をはっきり伝えないことが自衛になります。
2. 自動車業界の注文書における「契約の成立時期」
もっとも、現代の自動車売買においては書面を作成して適切な内容で注文書を作成することが一般的です。口頭での契約の場合は時間の経過によって記憶違いや詳細を失念する可能性がありますが、書面にすることでそのようなトラブルを未然に防ぐことができ、トラブルから裁判になった際には契約内容の証拠書類として活用することもできます。買う側にとっても、書面があることは守りになります。
ここで大事な点があります。注文書の記載項目や金額が印刷であろうと手書きであろうと問題ではありません。契約の成立については、その書面から契約の成立時期が読み取れる内容が記載されているかどうかが重要なポイントとなります。ほとんどの注文書には契約の成立時期について条文があり、その条文の記載のとおり契約は成立します。
① 購入者の名義に変更登録がなされたとき
② 販売者が購入者の依頼に基づく修理改造架装に着手したとき
③ 車両が購入者に引き渡されたとき
なお、割賦販売、立替払付販売等のクレジット契約の場合は、これらの書面に定められている日に契約が成立します。したがって標準約款ではクレジット契約が成立しなければ、売買契約も未成立となります。
ここから、買う側にとって重要な帰結が出てきます。「注文書にサインした日」が契約成立日とは限らないということです。標準的な注文書を使っている販売店であれば、名義変更・架装着手・引渡しのどれも起きていない段階では、まだ契約は成立していない可能性が高いことになります。
逆に言えば、「オプションの取り付けをお願いします」と依頼して販売店が作業を始めた瞬間に②が成立し、そこで契約が成立してしまうこともあるということです。急がせることには、この意味でのリスクがあります。
成立時期の条文が無い注文書の場合
仮に契約の成立についての条文が無かった場合は、当事者の合意があったといえるのかが判断基準となります。一般的な売買は諾成契約ですから、「購入の申込み」と「販売の承諾」が一致し合意がなされて契約成立となります。
したがって、販売店が作成した注文書に署名捺印した場合には契約成立とみなされることもあります。また、注文書を作成しなかった場合や見積もりのみの作成で書面への署名はないものの、頭金や申込金の支払いがあることで購入の申込の意思表示があり、契約が成立することを双方が合意したと判断されることもあるでしょう。条文に契約の成立時期についての記載がない場合は、あらゆる状況を総合して判断することになります。
関連して、手付金を払った直後のキャンセルについては 手付金を払った翌日に中古車の契約をキャンセルできるか で具体的に扱っています。
3. 「無効」「取消」「解除」は、それぞれ意味が違う
相談の場面でよく混ざるのが、この3つの言葉です。契約の「無効」「取消」「解除」の違いについては法律により定義されており、次のとおりです。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 無効 | 契約そのものがはじめから存在しなかったということ |
| 取消 | 契約が存在しているが、それを意思表示により無かったことにすること |
| 解除 | 意思表示をすることでその契約を無かったことにする、もしくはその契約を将来にわたって解消することを意味し、それまでの契約は有効になるということ |
実務上の効果として大きいのは次の点です。無効、取消はいずれも販売店はいかなる請求もすることはできません。
一方、法律に「キャンセル」の定義はありません。一般的に上で述べた契約の無効、取消、解除といった意味合いで使われていることが多いと思われます。日常語である「キャンセル」を法律の言葉に置き換えると、どの局面の話なのかで扱いがまったく変わるということです。
4. キャンセルは2種類ある ― 成立前と成立後で正反対
自動車販売における注文のキャンセルは、大きく分けて二通りあります。
4-1. 契約成立前のキャンセル =「申込みの撤回」
正式には「申込みの撤回」と言われています。契約は成立して初めてお互いに義務権利が発生しますので、成立前では互いに義務権利は発生しておらず、仮に標準的な注文書での申込をした場合には、サインや押印をして一時金を支払っていたとしても、相手に了解をもらわずに購入をキャンセルすることができます。この場合、支払った一時金の返金を当然に求めることができます。
ただし例外があります。購入者が販売店に対して納車を急ぐように要求し、車の整備や改造の手配、書類の手続きが進んでしまい、キャンセルに伴う販売店の損害とみなされる場合は、その費用を支払う必要があります。
迷いがあるうちは、整備・架装・登録の手配を急がせないのが、最も確実な自衛策です。
4-2. 契約成立後のキャンセル
こちらは既にお互いに義務権利が発生していることから、契約で定められた債務を履行しないなど法律が定める要件をみたす場合を除き、キャンセルにはお互いの合意が必要となり、申込みの撤回のように一方的にキャンセルを申し入れて終了させることはできません。
ただし、成立後だから絶対に終われない、という意味ではありません。次の2つの道があります。
- 合意解除 ― 注文書に「キャンセル不可」と記載されていても、合意がなされれば合意解除となりキャンセルは可能です
- 法定解除 ― そもそも契約で定められた債務を履行しないなどの場合は、債務不履行で法定解除となります
このようにキャンセルといっても、使用している注文書の内容や契約の進捗状況により内容は様々です。申込の段階なのか、契約成立後の段階なのか、販売者に損害が生じているのか等、色々な要素が関係してきます。相談するときは、この3点を整理して伝えると話が早く進みます。
4-3. 「キャンセル不可」「キャンセルは一切できません」の記載
注文書の表面に「キャンセル不可」「本契約となりますのでキャンセルは一切できません」などと記載されていることがあります。
これについては、契約成立後の債務不履行解除などを制限していると解釈される場合は、消費者契約法8条の2によりそのような条項は無効とされています。どのタイミングでのキャンセルかが明示されておらず不適切な表現である場合は、是正されるべきものです。
実務上は、この一文がある注文書は、成立前後の区別を書き分けていない可能性が高いと考え、成立時期の条文とセットで確認するのが現実的です。
5. 本人以外の事情 ― 未成年・成年後見・意思能力
契約する人の状況によって、契約の効力そのものが変わる場合があります。
| 状況 | 扱い |
|---|---|
| 未成年者の契約行為 | 両親・法定代理人の事前の同意がない場合には契約を取り消すことができるとされています(民法5条) |
| 成年被後見人の契約行為 | 判断能力が欠けているのが通常の状態で成年後見人登記がされている方が行う契約行為については成年後見人が代理して行うものとされており、成年被後見人自身が行った契約行為は、日用品の購入その他日常生活に関するものである場合を除き、取り消すことができるとされています(民法9条)。ただし成年後見人が事後的に追認(同意)した場合は取り消されません(民法122条) |
| 後見登記等がなされていない成人・認知症の疑いがある方 | 意思能力を有していないと判断された場合は、契約は無効となります(民法3条の2) |
近年は高齢者による契約でのトラブルで、高齢であることを理由にその親族から契約キャンセルを要求される事例が散見されます。ただし販売店の立場からすると、契約者(購入者)に対して「契約者が高齢である」という理由で契約の申込みを断ることは難しいですし、契約者に対して、契約当事者ではない第三者の家族から了解をもらっているかなどと聞くことは通常はできません。
つまり「買う前に一言、家族と話しておく」ことが、結果的に一番の予防になります。購入後に第三者から取り消しを求めるのは、当事者本人に判断能力があった場合には簡単ではありません。
6. キャンセル料として請求できる範囲は、思うより狭い
キャンセルに応じた場合の損害賠償、いわゆるキャンセル料についてです。消費者契約法9条に「消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効」という条文があります。
このことから、販売者が購入者へ請求できる損害額は、車庫証明費用や購入者の依頼による注文に応じた結果損害となったものなど、範囲は比較的小さくなります。
| 損害として認められやすいもの | 一般的には損害と認められないもの |
|---|---|
| 車庫証明費用 購入者の依頼による注文に応じた結果、損害となったもの(依頼を受けて着手した架装・取り付けなど) | 販売することができれば儲けられた利益 営業活動として使用した電話代・交通費・広告掲載料等(キャンセルされた契約があろうとなかろうとかかる経費のため) |
したがって、注文書にキャンセルの場合は「〇〇代金の10%を支払う」「キャンセル料は10万円」などと記載があっても、ユーザーはその記載通り直ちに支払う必要はありません。
そして、ユーザーにキャンセル料を求める場合は、販売店は損害の詳細を書面で提示し、ユーザーが支払う必要がある費用であることを明確にした上で請求することが求められます。
決め打ちの金額(車両価格の◯%、一律◯万円)が提示されたケースは キャンセル料はどこまで支払う必要があるのか で詳しく扱っています。
7. 納車後に不具合が出たとき ― 契約不適合責任
納車後の不具合(欠陥、損耗等)に関するトラブルは、契約時のキャンセルトラブルと同様に多い事案となっています。
中古車の場合は前使用者が使用した商品であり、一定程度の損耗等があることが前提となっています。しかし、通常の使用により生じる不具合とはいえない場合については、契約内容とは異なる商品を引き渡したと判断され、債務不履行(契約不適合責任。民法改正前では瑕疵担保責任。)となるのが原則です(例外は、当該欠陥・不具合を消費者に説明していた場合など)。
この場合、販売店が負う責任は段階的に定められています。
| 状況 | 販売店が応じるべきこと |
|---|---|
| 修理可能な場合 | 追完請求(無償修理等) |
| 修理が不可能であった場合 | 代金減額請求 |
| 追完請求に応じられない場合等 | 契約解除 |
重要な点が2つあります。ひとつは、販売店は不具合があることを知らなかったとしても、当然に免責されません。もうひとつは、このような不具合は保証契約の有無とは切り離して考える必要があり、現状販売、保証なし販売であっても対応する必要があるということです。
現状渡しで買った車に不具合が出たケースは 納車された中古車が話と違う・故障している をご覧ください。
販売店が責任を免れる方法 ― 裏返せば買う側のチェックポイント
販売店がこれらの不具合から責任を免れるには、納車時に引渡す自動車の性能・品質が契約通りの内容であることを書面に残し、消費者に署名をもらうことで対応することが可能です。不具合があればきちんと書面に記載し、消費者に示しておく必要があります。
この裏返しが、買う側にとって決定的に重要です。不具合を示さなかったということは、その車の機能は正常だという裏返しになります。
・書面に記載された不具合の内容をその場で読んでから署名する
・気づいた不具合が書かれていなければその場で書き足してもらう
・控えを必ず受け取る
なお、整備をせずに販売することは、こうしたリスクを販売店が負うということでもあります。
8. まとめ ― 買う側が押さえる5点
- 契約は口頭でも成立しうる。迷いがあるうちは購入の意思をはっきり伝えない
- 注文書の「契約の成立時期」の条文を署名前に読む。標準的には①名義変更登録 ②依頼に基づく修理改造架装の着手 ③引渡し のいずれか早い日
- 成立前なら申込みの撤回ができ、一時金の返金も求められる。ただし自分の依頼で販売店が動いた分は損害になりうるので、急がせない
- 「キャンセル不可」「キャンセル料は一律◯万円」は、そのまま従う必要はない。損害の詳細を書面で示すよう求める
- 納車時の書面は、その場で読んでから署名し、控えを受け取る。書かれていない不具合は「正常」と説明されたことになる
こうした注文書の書き方や説明の手順は、業界団体の研修で繰り返し扱われている内容です。研修を受け、法令や指導に沿った注文書を使う販売店を選ぶことが、そもそもトラブルに入らないための最短の道になります。愛知県内であれば JU愛知の適正販売店 が目安になります。