契約後にクレジットの審査が通らなかった
― 売買契約はどうなり、手付金と着手済みの整備代はどうなるのか
この記事のポイント(要約)
1. 相談 ― 審査が通らなかった、そのあとどうなるのか
実際に寄せられた相談は、次のようなものです。
相談① この場合、別の方法を講じても残金90万円を支払えと販売店から要求されるのでしょうか。
相談② クレジット承認不可の理由が、ユーザーの保証人に信用がないことによるものであった場合、販売店から別の信用のある保証人を立てるよう要求されるのでしょうか。
相談③ 契約が不成立になったと主張して10万円の返還を求めた場合、販売店に応じてもらえるのでしょうか。
相談④ 販売店はユーザーの要望(依頼)により、クレジット承認前に自動車の整備とナビゲーションの取付けをしていました。クレジット不承認の場合、その費用を請求されるのでしょうか。
この4つは、実はすべて「いつ売買契約が成立したのか」という1点にぶら下がっています。そこを先に押さえます。
2. クレジット払いの売買契約は、いつ成立するのか
ここが本件の土台です。
1985(昭和60)年1月21日付・通商産業省産業政策局消費経済課長通達による「昭和59年改正割賦販売法に基づく自動車販売に係る標準約款及びモデル書面について」によると、クレジット方式による自動車の売買契約は、信販会社がクレジットの取組を承認すると販売店に通知したときに成立するとしている契約成立時期は妥当なものであるとされています。
だからこそ、承認が下りなければ売買契約は成立していない=そこから先の話(残金の支払い方法・保証人・手付金)が全部変わります。
なお、現金払いの場合や、注文書に特約がある場合の契約成立時期は、これとは別の考え方になります。中古車の売買契約が成立する時期については 中古車の契約はいつ成立し、いつ解除できるのか で詳しく扱っています。
3. 相談① 別の方法で残金を払えと要求されるのか
結論から書きます。
クレジット契約が不承認ですから、売買契約そのものも不成立とみるべきでしょう。売買契約が成立していないので、販売店から別の形で残金支払い手段を講じるようにユーザーに求めることはできません。
つまり「審査が落ちたのなら、現金で用意してください」「他社のローンを組んでください」と迫られる筋合いはないということです。買う側から見れば、審査が通らなかった時点で、その車を買う話は白紙に戻るのが原則です。
4. 相談② 別の保証人を立てるよう要求されるのか
これも要求されません。
クレジット契約を申込む際にユーザーが保証人を立てた場合でも、それは「その人で審査が通るなら」という前提で立てられたものにすぎないと見るのが普通ですから、改めて別の保証人を立てることを要求する権利は販売店にはありません。
保証人というのは、その申込み1回限りの前提として立てられたものであって、「誰でもいいから信用のある人を連れてくる義務」を負ったわけではない、という考え方です。
保証人を引き受ける場面では、どの申込みについての保証なのかを確認してください。
5. 相談③ 支払った10万円は返ってくるのか
返さなければなりません。
クレジットの不承認によって売買契約そのものが成立しなかったのですから、販売店はユーザーに10万円を返さなくてはなりません。この場合、10万円の支払いの名目が着手金となっていても同様です。
ここは名目に惑わされないのが要点です。「手付金」でも「着手金」でも「申込金」でも、売買契約が成立していない以上、その金銭を販売店が保持し続ける根拠がありません。
| 言われがちなこと | この事例での整理 |
|---|---|
| 「手付金は解約したら戻らない決まりです」 | 解約(成立した契約をやめること)ではなく不成立。返還されるべきもの |
| 「着手金なので返せません」 | 名目が着手金となっていても同様に返還されるべきもの |
| 「車を押さえておいた分がある」 | 売買契約が成立していない以上、その主張の根拠は弱い |
なお、売買契約が成立した後に買う側の都合でやめる場合は話がまったく別で、キャンセル料(損害賠償)の問題になります。そちらは 契約後のキャンセルでキャンセル料を請求された と 支払い済みの手付金はどうなるのか をご覧ください。
6. 相談④ 承認前に始まっていた整備・ナビ取付の費用
4つの相談のうち、ここだけは結論が単純ではありません。買う側がいちばん損をしやすい論点でもあります。
6-1. 理屈のうえでの原則
整備やナビゲーション取付依頼は自動車売買契約とは別個の契約に関するものですが、それも自動車の売買契約が成立することが前提となっており、売買契約が不成立であれば、整備及びナビゲーション取付の契約も当然に不成立になるか、ユーザー側からの申込みの撤回が許されることになります。したがって販売店はユーザーにその費用を請求することはできない理屈になります。
車を買う話が消えたのだから、その車に付ける前提で頼んだ作業も一緒に消える——という筋道です。
6-2. ただし注文書の特約で結論が変わる
ところが、実務では次の定めが効いてきます。
つまり「請求できないのが理屈だが、注文書に書いてあれば請求され得る」ということです。だからこそ、注文書にサインする前に特約事項を読むことが効いてきます。
6-3. それでも請求できないもの
特約があっても、何でも請求できるわけではありません。
なお、法定点検整備費用や一般的な軽整備は、販売店は他の販売機会に転用できる性質のもので請求できないと考えることが妥当です。
判断の軸は「その作業が、他のお客さんに売るときにも活きるかどうか」です。点検整備をして商品として仕上げた分は、次に別の人へ売るときにもそのまま活きます。一方、その人のために付けた個別のものは転用が効きません。
| 作業の種類 | この事例での考え方 |
|---|---|
| 法定点検整備・一般的な軽整備 | 販売店は他の販売機会に転用できる性質のもので、請求できないと考えることが妥当 |
| 新品ナビゲーションの取付け | 取り付けたことで中古品となって値下がりした場合、その値下がり分を請求される可能性がある |
6-4. ナビ代を請求されたときの確認の仕方
ナビについては、請求され得る金額の考え方が示されています。
新品のナビゲーションを取り付けることで、当該ナビゲーションが中古品となって値下がりした場合は、その値下がり分を請求される可能性がありますが、どの程度値下がりをしたかを資料・明細を示してもらう等して説明を求めましょう。
提示された金額に納得がいかないときは、「どの程度値下がりしたのか、資料・明細で説明してください」と求めてください。説明できない請求には応じる必要がありません。
7. こうならないために ― 契約の段階で決めておくこと
この相談で買う側が負担を負い得るのは、審査の結果が出る前に作業が始まってしまった点に尽きます。ここは事前の取り決めで防げます。
中古車購入ノウハウでも、クレジット販売における手続き・修理などの開始時期について、次のように整理されています。
実務的には、次のどちらかを明確にしておくことになります。
・承認が下りてから着手する(買う側にとって安全)
・承認前でも着手する(納車は早いが、不承認のときの費用負担が発生し得る)
あわせて、特約事項には契約の成立時期や、申込金・手付金の性格が定義されています。とくに契約の成立の時期や、申込金、手付金などの性格が定義されていますのでよく読んでください。注文書の読み方は 見積書から納車まで ― 中古車購入の書類の流れ にまとめています。
8. まとめ
- クレジット方式の売買契約は「信販会社が承認を通知したとき」に成立するとされている。だから不承認なら売買契約は不成立
- 不成立である以上、別の方法で残金を払えとは要求できない
- 別の保証人を立てるよう要求する権利も販売店にはない
- 支払い済みの金銭は返還されるべきもの。名目が着手金でも同じ
- 承認前に着手された整備・ナビ取付の費用は、理屈としては請求できない。ただし中販連監修の注文書には実費を請求できる定めがあるため、その注文書で申し込んでいれば請求され得る
- それでも法定点検整備費用・一般的な軽整備は請求できないと考えることが妥当。ナビは値下がり分について資料・明細で説明を求める
- 予防策は「承認前に着手するかどうか」を注文書で決めておくこと
クレジットの審査は、収入や他の借入の状況によって誰にでも起こり得ることです。審査に落ちたこと自体は、買う側の落ち度ではありません。そのときに手続きの説明をきちんとしてくれる販売店かどうかが、実は最初の店選びの段階で決まっています。愛知県内であれば JU愛知の適正販売店 が目安になります。